どこまでもBlueなアモルゴス
リュック ベッソン監督の映画 グラン・ブルーのロケ地の一つとして知られているアモルゴスに着く直前、船内はThe Big Blue Overtureが静かに流れ、乗客の気分は否が応でも盛り上がる。今か今かとテンダーボート乗降口は人集りとなる。私は前日シアターで開かれていた寄港地レクチャーにも参加し、準備万端、やる気満々だ。
珍しくエクスカーションに参加しパナイア・ホゾヴィオティッサ僧院ほかを訪ねる。ポナンはすでにアドミラル会員になっているため、エクスカーションが2回ほど無料で楽しめる特典がある。
バスに乗り込む際、その日より船に乗り込みガイドを務めるギリシャ人女性にスカートでないことを指摘される。長いパンツをはいているので問題ないと思っていたのだが、女性はパンツは厳禁でスカートをはかなければならないらしい。そういえば、資料にもスカートと記載があったが、勝手に咀嚼した結果がこれだ。全面的に私が悪い。まぁ入り口で布を貸してくれるのでそれを巻けば問題はないのだが、なるほど改めて厳かに立ちはだかる僧院の歴史の重みが染み入る。
ギリシャの島々の観光名所は海からの外敵襲撃に備え、山の上にある。今となっては港周辺は土産物やレストランが軒を連ね、観光地ムードを盛り上げるものの、教会や中心街に行くには徒歩だと厳しいことの方が多い。狭く険しいカーブだらけの道を観光バスはギリシャ訛りの巻き舌と独自な調べの英語案内をバックにスイスイと登っていく。
9世紀に建てられた断崖絶壁と一体化した僧院はバスを降りてからさらに、300段ほどの石段を上らなければならない。ツアー客は随時案内を聞くためにイヤホンをつけているが、次第に年配の女性ガイドの息遣いが荒くなるのがわかる。予想はしていたが、この炎天下の中しゃべり続けなくてはならず、観光シーズンたけなわゆえ、なんとも過酷な状況下での仕事である。片手にツアー札、片手に日傘、これで階段をのぼるのではいくらなんでも危ないので、見かねた連れはツアー札係を所望し、得意満面にツアー客を誘導する。
僧院の中は強い日差しを遮るためにうす暗く、所々の小さな窓から風が通るようにできているので涼しい。ギリシャ正教といえばイコン崇拝が浮かぶが、中の撮影は固く禁止されており、数々の貴重なイコンは目に焼き付けてきた。外のテラスより眼前に広がる世界を見渡せば、どこまでも蒼く静かに広がる海の眺めが限りなく眩しい。小さな存在でしかない私なぞ、そのまま吸い込まれて消えてしまいそうな危険な誘惑と魅惑に満ちていた。
一通り見学が終わると、ソファーが置かれた部屋で薬草酒と甘いお菓子を振舞われた。この暑く乾いた大地を生き抜くためのEau de vie(命の水)を有難くいただく。過酷な自然環境が取り巻く大地で育まれた宗教の戒律が厳しいのは、そこで人々が生き抜くため不可欠な要件だ。
その後、自由行動となったホラの町でブーゲンビリアの咲き乱れるカフェにてビールを飲み、あちこちで自由にくつろぐ猫たちと戯れながら、東京に置いてきた愛猫を思い涙したのであった。
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